MUSIC MAN Sting Ray Bass

どんなベース?
 私は当初、敬愛する故バーナード・エドワーズ(シック)の影響で76〜78年製のスティングレイを探してましたが、程度の良いものはほとんどなく、たまに見つけても非常に割高な価格でした。そんなときにこの79年製に出会い、非常にめずらしいことにネックの素性の良さを確認したうえで購入したのです。プリ・アーニーボールのミュージックマンのネックはろくなもんがないことで有名で、私も数多く見てきましたがだいたいはネック起きしていました。反ってる反ってないとか言う以前の問題です。多くは「それにしてはちゃんとしている」というだけで買いかもしれません。でもこれはほぼ真っ直ぐでビシッとしていたのです。トラスロッドもなめらかで良く効きます。今は例えばAERO社製で77年製を模した優秀なピックアップも売っていたりしますから、音の問題よりネックの問題のほうが重要だと思うんですよね。結果的に試奏した感じも音的に問題を感じることはありませんでした。

 ところで、ベースマガジン99年12月号の「スティングレイ研究所」なる記事を見てたらなんと、77年製という紹介でこのベース「そのもの」の写真を偶然発見。同一じゃん!この時ばかりは「実は77年!?」と思いはしゃぎましたね〜。しかし、先日、信頼できる名クラフツマンにより79年製部品で構成されているサーキットを証拠に、購入時の表示通りでまちがいないことを確認。少し落胆。ということで雑誌記事とはいかにいいかげんなものか思い知らされました。

79年製のスティングレイの主な特徴
3コントロール・ノブ
3点止めネックジョイント(マイクロティルトアジャスト機構)
弦裏通し式
ヘッド側1/8インチヘックスのトラスロッド調整ナット
細く低いフレット(ギターのフレットらしいよ)
ミュート・スポンジ付きブリッジ
5/64インチヘックスの調整ナットを持つ中空パイプ型のコマ
ジム・ダンロップ式ストラップロック対応

 特徴はいろいろありますが、特に3コントロール・ノブと、3点止めネックジョイントと、弦の裏通し仕様が目立ちます。人気仕様ですからちょっとはうれしいです。ボディのコンター加工も無い頃のモデルで木材の塊のようです。アッシュボディのため重量は重いです。そのかわりヘッド落ちはありえません。

 楽器全体でのサウンドは、弦にもよるのでしょうが、一言で言ってハードファンク!79年製は(某氏曰く)「ガリガリ言わないプレベのよう」と言われる最初期モデルとは音が違うらしいのですが、非常にごつい響きがあり、これはこれでなかなか。80年代以降製とも違って硬派なのでむしろ大満足でした。クインシー時代のルイス・ジョンソンのようなサウンドです。昔のルイス・ジョンソンの有名な教則ビデオを見たことありますか?あの音ドンズバです。重低音と超高域は皆無で、簡単にドンシャリと言えないローミッド+ハイミッドサウンドです。トーンをフラットにした状態では、硬い芯にうっすらと柔らかく暖かみのある倍音の肉付き感があります。通りはよいけど広がり感はなし。濁声で暴れてるけど塊感があり、硬いけど粘りがある。スラップするとハリセンでしばかれているような迫力ある響き(笑)。全然現代的じゃない。実に素敵です。サスティーンは充分ですがそれ以上に歯切れの良さが目立ちます。そういえば、フレットがやけに細くて低いのでメイプル1ピースネックの木の響きがそう感じさせるのでしょうか。軽く指先を揺らすだけで存分にビブラートがかかります。

 このスティングレイは写真ではわからないのですがかなりの貫禄でして、レリック真っ青。率直に言えば醜いです。塗装のウエザークラックはあるわ、えぐれはあるわ、サビはあるわで、ミュートスポンジなんか私が購入以前から溶けてます。なぜ溶けてるのだ!?ところがネックが驚くほど良い状態なのです。ほとんど反っていなかったのでバズも少ないです。トラスロッドもびっくりするほどスムーズに回せます。まぁこの年代じゃ木材の狂いも出尽くしているだろうし、トラスロッドに世話にならずとも安定していますから、使う分にはかなり安心できますね。
 それと、決して弦高は低くないからというのもバズが出にくい一要因ではあるでしょう。いつもだと弦高が高いのは弾きにくいので私の好みじゃありません。でもこいつはナットと各フレットが低いので、ロー・ポジションでは低い弦高に感じます。だからハイ・ポジション以外は押弦も楽です。ロー・ポジションでも幅広なので好みは分かれるでしょうけどね。奏法に関係することですが、スラッピングのサムの鳴りは弦が低くすぎるとあまり良くないもので、ちょうど良い高さが存在するものです。その意味では、ネックエンドで程良い弦高がかせげています。これを実現させるためにわずかにネックを順ぞりさせる人もいますが、大凡真っ直ぐなネックでこうなるとは、なるほどスティングレイはスラッピング向きなのだなぁと悟りました。よく調べてみるとブリッジのコマをあまり低く下げられない構造になっています。ブリッジのコマが中空の横倒しパイプ状をしてまして、その内部にコマの高さ調節用足ビスが入っています。このコマを低弦高側に向けて下げきると、中のビスが上面に向けて飛び出してきますが、コマ上面にある調整用の穴の内径がビス径より小さく、終いにはパイプ状の内径の上部に当たってしまい、それ以上はビスを上げられません。この時に、けっこうな長さのビスがまだコマの足として残っているのです。(ん〜文で意味伝わるかぁ?)これは、ネックジョイント部のマイクロ・ティルト・アジャスト機構を使えば、ネック仕込み角次第でさらに低弦高にもできるとは思います。でも、使っていません。マイクロティルトアジャストは原則として使わないに越したことはない機構ですからね。
 あと、楽器全体での鳴りも合格です。重いアッシュに裏通しだからなのでしょうか。木材が振動して「ゴーン」と鳴ります。NS-4でかなり鳴りには厳しくなった私もこれには満足です。でも、こんなに木鳴りすると、テンションの緩いゲージの弦を張ったら全体で振動干渉しそうですね。

 このベースを入手するとき一緒に比較して82年製スティングレイも試奏して悩みました。あちらは美しいドンシャリで低音が気持ち良く出ていました。音量もあり、サムのときは私の好みのパフパフ感もあり、充分現代的音楽にも使えそうでした。ただ、プルの音はくせがなく綺麗なので個性を出すのは難しいかもしれません。あと、もう一本81年製も試しましたが、それは音量が足りませんでした。個体差ある昔のスティングレイを選ぶときの目安は、音量のでかさと、前述のネックの状態でしょう。残念ながら82年製はよく見るほどにネック起きしている気がしまして、それは見送ったのでした。ちなみにアーニーボール製は量産のわりにネック・クオリティは案外マシな方とのことです。

 現状、購入時フルオリジナルのままなのでいたるところでフレット減りが激しいです。またこのままでキャビティ内は一切の導電処置がされていませんのでやはりノイズも大変拾いやすいですね。オリジナルにこだわりすぎずきちんとリペアに出してみようかと考えています。楽器として使えるように万全であるべきかなと。


後日談1

 上記の点のリペアを決断。このリペアだけは腕利きに任せたく、リペアマン情報(これが非常に少ない!)を探しました。充分な検討の末、確信を持って川口のラムトリックカンパニーにお願いして参りました。オリジナル通りの復元も可能ながら、相談の末、少々のモディファイを加え、使用楽器としてより良いものにすることにしました。納期2ヶ月!(リペア箇所:細めでオリジナルよりわずかに高めにリフレットとオイルドボーンナットへの交換、わずかなネック修正を兼ねたリフレットに伴う指板修正とメイプル指板クリアラッカー塗装、キャピティー内の導電塗装)

後日談2

 上記の点のリペア終了。ラムトリックカンパニーの竹田豊氏、噂に違わずやはり最高のリペア技術の持主です。このリフレットは神業だと思います。驚異のぴかぴかストレート指板と整然としたフレットに感涙。ネックまわりだけはまるでハイエンドベースの新品以上の状態です。現状、パーフェクトなネックを持つ貴重なスティングレイとなりました。トラスロッドも大変軽くて良く効きますし、チューニングペグも驚くほどなめらかに気持ちよく回ります。リペアと言うよりこれはSonicチューンですよ。おかげで今の時代これを超えるコンディションのスティングレイは滅多に存在しないと断言します。マジで日本一のビンテージスティングレイではないかと思っています。

しかも問題だったノイズもしっかり解消しました。オリジナルに準じた細いフレット(元のより当然わずかに高さがある)にしていただいたおかげで根本的サウンドは変化せずにすみました。


リフレットとは、こうあるべきでは(リペア全般にあてはまる)
 リフレットしない = 例えば62年以前のJAZZBASSを大事に保存して人類の遺産にするとか
あるいはいつか高価で手放そうと少しでも考えているのなら
現状まだ演奏可能である、あるいは、
真の骨董品・博物館所蔵・投資目的・飾り/オブジェ・楽器として素性がたいして良くもない・コレクター・弾かない人
 リフレットすべき = 弾ける状態じゃないまたは良い音が出ない状態の物なら「楽器」としての存在価値は何? 使い物になる良い楽器・弾く人
ただし優秀なリフレット技術が要

後日談3

 もう少しキレとハリが欲しくてステンレスのフォデラ弦(44〜106)に交換。音色的にはDRも狙いだったけど、あちらは手触りが硬いので、なめらかで柔らかいフォデラ弦のほうが良かろうと思いました。しかし、音は思いっきり変わりましたね。ステンレスとメイプル指板とが響き合ってカキンコキンになりました。中域の肉感がそぎ落とされて金属パーカッション的なやかましさ。特にスラップにおいては、プルはシャープになりかえって良かったのですが、サムのフレットへのアタック音が基音よりうるさく耳に痛い感じです。これなら同じフォデラ弦でもニッケルのほうが良かったかもしれません。もっとも2フィンガーはちょうどよくブリっと音粒が立つようになり俄然すばらしくなりました。これでもっと弦がなじんでくれば(少し死んでくれば)70年代末〜80年代初頭あたりのオハイオファンクのようなサウンドになりそうです。


先述のベースマガジンに掲載された時の写真

1999年12月号と2003年6月号でした。
1999年12月号
スティングレイ研究所より

77年として紹介されてましたが間違ってます。同じベースです。木目や傷が合致します。

2003年6月号
スティングレイ大辞典より

15ページ下の竹田豊氏の記事を拡大すると↓

文章中にこのベースをリフレットした時のことが書かれてました。経験豊富なリペアマンとしても例外的にしっかりしたネックだったとの印象。いわばお墨付きです。
(ご本人に確認済みです)


そして現在の写真


レリック真っ青の小さな傷は
全体いたる所にあります。
特に1カ所にえぐれ傷があります。

←塗装はまさにビンテージで、
 このようなウェザークラックが
 ありこちにあります。


ミュートスポンジはなぜか溶けて
カチカチに硬化してます
(使わなければ問題なし)。
まるでライター等で炙ったかのようです。


年代物ゆえに
ハードケースはボロボロでした。
留め具も1カ所バネが故障してます
(使用上は問題なし)。
でも内側は問題ありません。
香料のイイにおいがします。

追伸 13年11月吉日、お嫁に行きました。お幸せに。

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