Spector NS-2 (preKramer)

どんなベース?
 NS-2は85年製。NS-2CRに引き続き04年入手。共に近い時期に入手したため、一時は無一文になってしまいました。ただ、これもオークションで、店頭相場より安かったのがせめてもの救い。なんせこれこそは長年私の理想のモデル、すなわちプリクレーマー
(※)でクラウンインレイで白に出会ってしまったわけで、こんなこともいつかはあるだろうと小遣い貯めておいたのが正解でした。

 いわゆるプリクレとはいえ、85年製は晩年です。86年途中以降はしばらくクレーマー製となり、それ以前と以降とでは評価と価値が変わるという、そのギリギリの所です。プリクレらしさが残っているか心配でした。
 まずこのベース、他のSpectorに比べるとなぜか微差ながらシェイプが異なります。まずボディがなんというか微妙に平面的です。それは上部ホーンなどに見られ、板面から曲面に変化する境目がはっきりしています。ふつうはもっとなめらかです。下部ホーンに至ってはシェイプアップが足りず随分と太い。ヘッドも微妙に小ぶりです。なぜこのようにシェイプが異なるのかは謎ですが、人間の手作りなら気がゆるめば完全に同じ物は作れないというのが私の解釈です。名木工職人であれクオリティには影響しない程度のわずかなズレが生じることも無いとは言えないでしょう。曲面の加工はおおまかには型に沿った機械での削り出しだと思います。しかし仕上げは手でヤスリがけでしょうからね。恐らくこの時期はクレーマーへの売却予定もほぼ決まっていたんじゃないでしょうか。それで先が見えている運営とあっては木工職人の気持ちに少し空しさがあってそれが手作業に影響を及ぼしたのかもしれません。とはいえ、他と形が揃っていない=出来が悪いという意味ではありません。特に木材に関してはかなり良いものを用いているとすぐわかります。高剛性で弦鳴りが良いばかりでなく、乾燥充分で安定しています。ウエイトバランスも良く(多くのSpector仲間はこのベースを持つと皆口を揃えて「激重!」と言います。自分の他の重いベースに比べあまり重さが気にならないのはまさにエルゴノミクスデザインの賜物なのだと思います。)構えた感じがとても気持ち良いです。ネックもチェコ製などに比べると幅広なのですが(現行US製2Jほどではありません)、手に余るようなブ厚さではないのでフィンガリングに不自由はありません。スルーネックらしくフォーカスのズレがない弾性に富んだ強い響きがあります。また、その指板加工精度は非常にすばらしく、年代物にもかかわらず指板全面で驚異的にまっすぐな状態を維持しています。指板は色の薄いローズウッド、指板の最終部はラウンドカットになっています(この処理が美しくて好きだな)。ブリッジは真鍮削り出しの角形タイプで相変わらず非常にしっかりしたものです。
 まっすぐなネックと書いたばかりですが、どういうわけか6、8フレットのみ未体験な甲高いバズが目立ちましたので、このベースもリペアをしています。信頼ある川口のT氏にあずけました。リペアをすると価値が下がるという人もいましょうが、私はちゃんと使えない物は価値云々以前に楽器じゃないと思っていますので、良い楽器にするためならリペアもアリだと思います。問題はリペアのクオリティとセンスですよね。で、このベースの場合は、ネックは問題なかったもののローアクションにするにはナットが低すぎるとのことで、実は6、8フレットよりローポジションが共振してビビっていたとのことでした。製作当時はまさかここまで弦高下げて使われるなんて思っていなかったでしょうからね、こんなトラブルはSpectorのせいじゃないとフォローしておきます。そこで今回の処方は、極薄のメイプル板をナット下に貼り、念のためフレットファイリングを施してもらいました。結果的にすばらしい弾き心地とサウンドを共に得ることができたと思っています。
 

サウンドは?
 HAZ Lab.の名プリアンプ搭載モデル。基本的には明るくナチュラルな音でした。まず、トレブル&ベース共にセンターだと、ドライで硬い芯のあるヌケ重視のサウンドですね。しかし、トレブル&ベース共に上げると、ややコンテンポラリーなワイドレンジスタイルになりつつ、ガツッとした手応えがある響きのサウンドに変わります。しかも強いピッキングでラウドにしても崩れないのは大変な魅力です。アクティヴイコライザーの効きはおとなしいので、ロックっぽくするには共に常時フルテンで問題ありません。それでもかなりハイファイ感が伴いますので、ダークでダーティーな感じにするにはエフェクターかアンプか何かで歪ませるか、コンプでぐっとさせる(なんじゃいそりゃ?)と良いと思います。HAZは古いサーキットで、アクティヴの走りの時代を代表する傑作といわれていますが、高S/N、ハイパワー、ワイドレンジ、どれをとってもとても20年以上前のサーキットとは思えない鮮烈なパフォーマンスで驚かされました。

※ プリクレの魅力(通の間ではブルックリンメイドと呼ばれる)
 以前は私も世間の評価に対し「プリクレってそんなに良いの?」と思っておりました。しかし実際に何本ものプリクレを手にしてよくわかったのですが、率直に申してやはりすばらしいベースですね。これは手に持ってみなければわからなかったことでした。プリクレの魅力は、当時気鋭のスチュアート・スペクター氏の手よるオリジナルなアートであることだと思います。自身の思う最高のベースを作ろうと、天才ネッド・スタインバーガーによるパーフェクトなデザインにふさわしくあるようにと、材の選定や細部の作りに精魂を込めているのが感じられます。それにより高められた質は格別の手触りを与え、そして音にまで意気を感じさせます。それらが全てひとつになってベースの形をしたアートに完結している。現行 US製もこれに近いと思いますがマーケティングもちゃんと考慮されているのがわかります。初期のSpectorにはそれをたいして考慮せずにスタートからただ熱意だけを持って加速しつづけた時期特有の、ゾーンに入った凄みを感じます。今回の私のベースもただ微妙なシェイプが他と揃っていないと言うだけで、質が悪いところは何一つありません。それどころか晩年の作品故の倦怠感のようなものまで伝わってきて興味深いものです。

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