Fender C/S 1955 Original Precision Bass Relic

どんなベース?
 06年製。フェンダーUSカスタムショップのオリジナルプレシジョンベース(以下OPB)の1955年モデル。エレクトリックベースの元祖といわれるOPBの後期のタイプを再現した製品です。OPB誕生時(1951年)とは少々仕様が異なりわずかに洗練されつつある時期のモデルですが、それでも原始的なにおいぷんぷんなベースであり、なかなか手強く扱いにくい一面を持っています。自分のようなヤワなベーシストには本当は不向きなんですけどね、あこがれの一本だからしょうがないのです。ただしこのメイプル1Pネックにボディカラーがブロンド(シースルー)でピックガードが白、この配色じゃないと買うことはなかったベースです。そう、この配色こそ、かつてデビュー当初のEW&Fでヴァーダインが弾いてたOPBそのものドンズバなのでした。だから買ったベースです。私は今までこの配色の、かつ買える値段のOPBを楽器店で見たことはなかったですから。某楽器店でカスタムショップにオーダーした一本とのことで、発注担当者に拍手です。いるんですねそういうセンスの人。
 造りの方はいわゆるレリックなので、もうそこかしこダメージだらけ。そこがこのベースの唯一気に入らなかった点です。個人的にレリックというのはあんまり好きじゃありません。ジーンズのダメージ加工と同じ発想を楽器に持ち込むのはどうなんだろう。エイジドとかウォッシュ加工とは違いますもんね。傷やサビは扱いの悪さの表れであり、個人的にはそういうことを付加価値にしないで欲しいんですよね。歴戦の勲章的な物ならダメージだけではなくてもうちょっと手入れもされている表現があると思うんです。また随分と凝った加工でして、ネジ一つ見てもサビ風なんだか知りませんがホンモノのサビネジと同じぐらい固まって回しにくいんです。そこまでやるかいな。たぶん市場的にはレリックって好印象を持って多くのファンに支持され歓迎されているんでしょうね。それって自分の戦歴じゃないじゃん、なんかかっこわるくないかな。…でも、何言ったってこの配色だからねぇ。しょうがないです。
 ネックだって購入時はもろ順反りなんですよ。そういうのもレリックですか。いいねぇFenderだけですよ、それで許されるのはね。どうやら張ってあった弦がFenderオリジナルのハードな極太フラットワウンド弦だったので、テンションが強すぎたようです。トラスロッドはありがたいことにレリックではなくちゃんと効きますので、すぐネック調整してみたらちゃんとイイ感じに直りました。素性は良さそうな太いネックです。


こういう古風なトラスロッドなので、いちいちネックをはずさないといじれないのが不便ですよね。ネジをバカにしてしまわないように気をつけねば。


不便といえばこの独特のブリッジも不便です。テレキャスターと同じ構造のブリッジなのですが、もう見た目だけで機能性はがまんするしかないのです。誰もが心配するオクターブピッチは、純正弦では意外なことに大きく狂いません(弦によるでしょうね)。それよりも大きな問題は別にありました。それはサドルの傾きです。指板のカーブにあわせて各弦の高さを調節するとどうしても2,3弦は1,4弦より高くしなければならないのですけどね、そうするとブリッジのサドルがそれぞれナナメに大きく傾けなくちゃならないのです。どう考えてもおかしなテンションのかかり方になります。しかも限度がありますので、調整幅は狭いです。

ジャック。専用パーツで落とし込んだ独特のデザインです。こういうディテールがたまらないです。

コントロールパネルもミッドセンチュリー調デザインですね。

ネジ1本で留められたフィンガーレスト。木製で黒く塗られてアクセントになってます。

こちらはブリッジカバーだけを付けた姿。


こちらはピックアップフェンスまで付けた状態。この姿も古き良きアメリカのデザインを感じてとてもいいですね。このピックアップフェンスは後のフェンダーベースの物とは違ってコの字型なので4弦を弾く時に親指を乗せやすいですね。


魅力ある細身のヘッド。このヘッドが好きな人も多いでしょう。ペグは面取りされたちょっと珍しいタイプとのこと。

ネック裏にはスカンクライン。

このネックは一般的に太めと言われますが、個人的にはそうは思いません。実は、私は(弦高さえ許容以下の高さなら)ネックの太さからは弾きにくさを感じたことがあまりないのです。比較的敏感で神経質な私が唯一、全然こだわりのないのがネックの太さ。むしろ、ある程度の弦間が確保されてる方がフィンガーピッキングしやすいので幅だけは狭くない方が好みです。厚みにいたってはどうでもいいです。また、ついつい剛性の事を考えちゃう心配性なのでその理由だけで太いネックのほうが好きです。このベースのネックも太いとされるだけあって剛性は立派なもので、この強烈なテンションの弦を張ったまま数日経っても、暑い日もあり、クーラーの効いた日もあり、長雨の日々もあり…でも微動だにしません。新品ネックは動くことが多いので用心して見守っているのですが、きっと使われた材も優れてるんだろうなと感心しております。でも油断はしないようにしてます。

サウンドは?
 個性的なごついサウンドです。重低音成分はあまりないんですが密度の濃い腰にくる低音で、ローミッド以下が塊となってぶっきらぼうに出てきます。トーンを開ければそれなりの明るくヌケの良いハイ成分も出てきますが、浮き立ったギラつくハイではなく、またトーンを絞ってもハイミッド未満の部分は全く影響を受けず濃厚に出てきますので、味わい深いコクのある低音がたっぷり楽しめます。ただし弦で結構変わりましたから、ベース自体は極めて素直だと思うんですね。
 音色以外で最も特徴的なことは、弾き方次第で激しく大胆に音量が変わることです。ピッキングのタッチにより簡単にダイナミクスが付けられる。すごいわこれは。ちょっとでも縦振動方向に鳴らすとフロアタムのような響きでびっくりします。これはこのシングルコイルPUの性質であり、このベースを弾く難しさであり、最大の楽しみでもあります。かといって、使いづらいかというとそれほどではなく、このピックアップは普通の横振動ピッキングの音もあまり不満のないレベルで拾ってくれます。これは当時の製品ではなく現代のリメイクなので、欠点までも完全再現することはせず、そこそこの性能を持たせているのではないかと思いました。


このベースの特徴づけるピックアップ。シングルコイルですが驚くほど有機的で豊かな低音を発します。難点はノイズはよく拾うことと、物理的に破損しやすいことです。指は置かない方が良さそうね。

 ただし出力はパッシブなりですので、このベースを生かすにはアンプの力が必要です。小さな出力を増幅してスピーカーアウトした時に鳴ってナンボなので、アンプがろくでもないとダメだと思います。楽器屋で購入時に試奏した際はアコースティックイメージだったんですけど、あれは相性の良いアンプでしたね。他のはまだあんまり試してないですけどね。音源を例に挙げますと、私のこのベースのイメージは極初期のEW&Fだと先に書きましたけど、アルバムで言えば真の1stといわれる"LAST DAY AND TIME"やその次の"HEAD TO THE SKY"あたりで聴けるあのベースサウンドがこのベースの音そのものです。
 なお、このベースの最大の欠点と言えるのがハムノイズです。これは手指を弦から放したとたん絶対に鳴ります。シングルコイルPUだからやむを得ないことなのですが、演奏上は不要な音ですので気をつけるようにしなければなりませんね。

最初の失敗
 このベースのようにネックが正常なら、張りの強い太い弦に対してもトラスロッドをがつんと効かせれられれば一応はまっすぐな状態のネックになるでしょう。振動感も気のせいかびんびんのように感じます。しかし、テンション対テンションできりきりと緊張感のあるネック状態より、そのネックにとって余裕のあるテンションで弦を張る方が、木製楽器の寿命という意味でメリットが多いだろうと私は考えます。そこで今回は購入後すぐ愛用のトマスティックのフラット弦に交換してみました。緩いテンションとソフトなしなりからはずむような音を生み出す有名な弦です。そしたら案の定、張ったとたんにネックは逆反りしはじめました。さっそくトラスロッドを緩めて正常な直線ネックに調整し、トマスティック特有の大きな緩い振幅に合わせて弦高も上げ、ブリッジサドル上に荷重をかけました。すでにSpector SB-1で要領を得たセッティング方法です。ところが、なぜか本来の濃い低音が鳴ってくれないんですよ。良い低音がちゃんと出てるSB-1とは生音の振動から全然違います。特に、結果的にサドルを上げた2,3弦ほどヘンな音でした。これにはさすがにまいりまして、結局、私はたった1日で弦を元のフェンダー弦に戻したのでした。トラスロッドも再び調整し直しです。サドルもまた下げました。弦高はトマスティックの時よりずっと低めです。でも、やっぱりまたいい音で鳴りだしたんですよ。どうやらテンションが緩いからといってブリッジサドルを上げすぎるとかえって鳴りが良くないようです。弦高だって下げれば鳴りが悪いか音が細いかというと一概には言えませんしね。何事も、一面だけ見て判断できませんし、一要因だけで決まってるわけないです。弦楽器はいまだにわかりません。まぁでもこのベースのおかげで良い経験が出来ました。

関連リンク:OPB友の会(ZZさんをのせて発足させたオリジナルプレシジョンベースのファンクラブ。なんと私が会員番号1番です!)

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